
土地 査定の世界
いずれも通勤時間は一時間以内であり、八時から一二時近くまで、毎日のように残業しているということになる。
就業規則では、平日の始業が午前八時四五分、終業が午後五時と定められている(三一条)。
だが、毎日のように、少なくとも二時間、多いと七時間にわたる長時間残業がつづいている。
男子行員の場合は、月間の残業は少なくとも七○?八○時間になり、一○○時間前後の場合が多いという。
長時間残業、長時間労働は、この二つの家庭寮の行員たちにかぎらない。
主婦たちは、「F銀行の家庭寮は母子家庭寮ですよ」という。
F銀行従業員組合の「四十年史」は、A会長の〈当行においては、組合の発足以来、終始、相互の信頼に基づいた安定的かつ円満な労使関係が確立されてまいりました〉という祝辞で最後をしめくくっている。
経営トップも自慢の従組が八四年一○月に実施した意識実態調査(以後は従組調査)でも、長時間労働の実態が反映されている。
従組調査によると、〈あなたは毎日働いていて、腹の立つこと、不満なことは何ですか〉という問いにたいして、男子行員の三九・一%までが〈時間外労働が多いこと〉をあげ、ダントッになっている。
また、〈あなたは平日の退行後、どのようにすごしていますか〉という問いには、男子行員の半数を超える五二・四%までが、〈時間的余裕がないので、入浴や食事をして寝るだけ〉と答え、むろんダントッとなって、残業が多いのは、過大なノルマをあたえられ、定時ではこなせないからだ。
取材の趣旨を知ってもらって協力をえるため、第一章のN証券について原稿のコピーをある行員に手渡していた。
それを読んでくれた彼は、「N証券がノルマ証券なら、F銀行はノルマ銀行ですよ」といった。
F銀行自身のD(投資家向けの財務内容開示)刊行物「F銀行の現状」八七年版を見ても、ノルマの急上昇は明らかだ。
仕事量を示す従業員一人当たりの預金額は、八三年三月期には一○億三三○○万円だったが、四年後の八七年三月期には一・八倍の一八億一○○○万円になった。
一人当たりの貸出額も、この四年間に六億七九○○万円から一二億六九○○万円に一・九倍になっている。
そして、一人当たりの利益は、三三○万八○○○円から六八二万五○○○円へと二倍以上になった。
カネ余りだからといって、銀行の仕事量が自然に増えたわけではない。
ある行員が彼宛になっている支店長からの「目標示達書」を見せてくれた。
支店長自らが作成した文書であり、〈「ボーナス・キャンペー利益の一割以上は残業料のピンハネで実家から通勤しているある女子行員は、給与支払明細書を見た母親に素行を疑われてしかられたという。
「おまえは毎晩、毎晩、残業だといって遅く帰るが、どこを遊びまわっているのか」というわけだ。
母子家庭寮の主婦たちも、夫の明細書を見れば、銀行のやり口に気付くはずである。
残業手当は、実際の残業時間の数分の一程度でしかない。
F銀行の全部長・支店長には、人事部長から半期ごとの「時間外予算の運営」という通達が下ろされる。
むろん行内でも厳秘の秘密文書で、部長や支店長も部下には見せない。
この人事部長通達によると、八七年九月からの今期の「時間外予算」は、役席(管理職)で一五時間、男子行員一時間、女子行員一ン」における、あなたの役割を示達する〉とあった。
行員全員が集合する朝礼で、支店長が一人ひとりに握手をかわして手渡した。
「スキンシップ作戦なのか、このごろはやたら握手がはやっている」という。
だが、「目標示達書」のいう〈役割〉とは、ノルマにすぎない。
何項目かにわたって、〈個人定期X百万円X口〉とか、〈新マル活口座X件〉などと記入されていた。
〈新マル活〉とは、定期預金が一○万円以上ついた普通預金のことで、これらがボーナス・キャンペーン中のノルマだった。
そして、「今日のチャレンジ基準」ということで、その日その日のノルマを明記している支店が少なくない。
行員たちは、ノルマを果たすために残業を強いられるが、その長時間残業に見合った時間外手当さえ請求できない、残業料削減のノルマを押し付けられている。
そのノルマは、あくまで時間外手当支給を削減するものであって、仕事のノルマを果たすための時間外の残業時間そのものの削減ではない。
いいかえれば、時間外にどのくらいダダ働きするかというノルマだった。
○時間、途中入社の庶務行員二○時間となっている。
これ以上の残業時間の申告はまかりならぬという残業手当削減のノルマだ。
三年前の八四年度下期の人事部長通達「時間外予算の運営」で、すでにこれと同じ水準のノルマが示されている。
そして、このノルマが〈全営業店一律〉のものであると明記し、つぎのように指示している。
〈時間外計画をたてるに際しては、上記時間を時間外の上限と考え、所定勤務時間を含めて、限られた総勤務時間をどのように使用すれば最大限の成果が得られるか十分検討の上、作成されたい〉前記の時間外の枠が〈時間外予算〉のつく〈上限〉ということである。
〈時間外運営の重点は時間外予算時間の厳守とする〉と指示しており、この〈上限〉を超えれば〈予算時間〉以外であり、事実上、時間外手当を支給しない。
さらに、〈前期同様、時間外を大幅に行ったものは個人別に報告することになっているので留意願いたい〉と記し、〈万一〉の場合として、〈予算時間を超えざるを得ない事態が見込まれる場合は、すみやかに貴店の当期超過時間数見込と超過せざるを得ない事由を別紙の様式により人事部へ報告されたい〉と指示している。
むろん、これらは人事部に報告すればすむというものではない。
この「時間外予算の運営」は、〈営業店表彰制度と結びついた運営を行う〉ことを前提にしている。
営業店表彰制度では、時間外手当削減のほか各店ごとにあたえられている業務上の各種のノルマを果たせば〈満点〉となり、果たさなければその営業店ぐるみ減点となる。
また、事務表彰制度によって、〈一人当たり時間外〉の〈上限〉を超えるなどノルマを果たさなかった個々の行員も減点される。
これらの減点は、そのまま個々の行員の人事考課となり、そのときどきの時間外手当どころか、将来にわたる昇給や昇格にひびく。
ことに八六年以来、銀行界でいっせいに実施された新人事制度によって、人事考課が昇給や昇格を決定づけるようになった。
また、表彰制度は、営業店同士、行員同士をノルマ遂行をめざして競争させるものである。
人事部長は、全部店長宛に「時間外実績の還元」という表題の文書を送付している。
これには、一○ぺージにもおよぶ「時間外実績店別一覧表」がついており、〈時間外の多い店〉はリストアップされている。
こうした成績がその支店や支店長の考課となる。
行員たちは、労働基準法にも違反する行為であると知っていても、業務のノルマをこなすため一○○時間前後も残業し、しかも、銀行が一方的に決めたく時間外予算〉の〈上限〉におさまるよう、残業時間を大幅に削って申告している。
彼らは、「時間外管理表」という残業時間の申請書を手渡されている。
その日ごとに残業時間を記入する形式になっているが、だれもが一カ月分をまとめて記入する。
毎日、記入すれば、〈時間外予算〉の〈上限〉を超えてしまうからだ。
自ら削った残業時間はダダ働きとなる。
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